【イントロダクション】
えみは江ノ島に住む16歳の女の子。
えみの家族は食品雑貨店を営む母親と、会社員の兄の3人暮し。父親は3年前に交通事故で死んでしまった。
えみは家の中で、かわいらしく従順で、愚かで、それでいて目が離せないような「ペットのような存在」を演じている。母のことも兄のことも嫌いではないが、「養われている」という心苦しさが、えみの心に重くのしかかっている。
えみは女子高生に演劇部でシナリオを書いている。最新作のテーマは男の同性愛。ところが、演劇部の女教師に、高校生らしくないという理由でボツにされる。えみは、同性愛とか、売春、強姦、自殺というような、母や兄が聞いたら顔をしかめるようなことに興味をもっている。そんなえみでも、男をキチンと好きになる恋愛経験はない「江ノ島という享楽的な土地に育った」わりにえみ自身は翔べない。えみはそんな自分に焦っていた。
何となく絶望――。
夏の終りに、えみは少し憂鬱だった。今年もまた大勢の若者が訪れ、そして去っていった。何人かの男たちはえみに声をかけたが、心ときめくものはなかった。
そんな気分を紛らわせるため、夜中にそっと家を抜け出し街を一人でさまよった。タバコやシンナーに手を出し、好きでもない男にキスさせた。そして毎晩のように「遺書」を書いた。
絶望が続くある日、えみは親友の友子の中学校時代の同級生でジミーと呼ばれる少年・脇坂肇が、岸壁から身を投げる現場を偶然見てしまう。とっさにジミーを助けたえみだが、「自分に他人の自殺を止める権利はない」と思い、謝るためジミーの入院先を訪れる。
えみはジミーのなかに自分と共通する何かを感じてしまう。えみはジミーと話をするうち、恋に似たものを抱くようになっていた。ジミーはかつて明るい成績優秀な少年だった。ところが、両親の離婚をきっかけに、ビデオで自分自身を撮るような、閉鎖的で暗い少年に変わってしまった。
数日後、えみは、偶然街でジミーと出会う。ジミーはえみに、薬局で精神安定剤を買ってきて欲しいと頼む。ジミーは中毒だった。えみはジミーの手を引いて島の奥手。稚児が淵へ出かける。
「ねえ、あの薬2人で飲まない?」
「だめだよ」
ジミーは不愉快そうに拒否するが、えみは強引に飲み込んだ。2人は心地よいけだるさの中で、たどたどしい愛の言葉を交わした。かすれゆく意識の中で、えみは叫んだ。
「お父さんジミーを連れていかないで…」